
今回は「顧客理解を深める方法とは?」というテーマでお話しいただきたいと思います。よろしくお願いします。



はい、お願いします。



初めに、経営やマーケティングで、なぜ顧客理解が大切とされるのでしょうか?



結論としては、会社の経営はお客様がいないと成り立たないからです。 私からすると「顧客理解が大事」という議論が必要な状態になっていることが、そもそも問題だと思います。



そうなんですか?



はい。
会社の経営をしようと思ったら、売上を立てなければいけません。
マーケティングで集客をしようと思ったら、お客様を集める必要が
あります。



売上もお客様を集めるのも、お客様が自分たちに振り向いてくれないと、成り立ちません。



しかし、そのお客様を理解せずにマーケティングをやっている、お客様を理解するための行動をしないで、経営やマーケティングをやっているのは、そもそも論外なのです。



なるほど、確かにそうですね。
ではなぜ、「顧客理解が大切」という議論が出てくるのでしょうか?



99%の会社は、お客様のことを理解した「つもり」になっていることが実態なため、「顧客理解が大切」という話をする必要が出てくるのだと思います。



顧客理解が大切だとわかっていて、理解しようとしている企業は少なからずあります。
しかし、そのような企業でも、実態は顧客理解をしたつもりになって
いるだけで、よくわからなくなっている企業が多いのかなという印象を持ちました。



そうなんです。ペルソナ設計を作っただけで、顧客理解ができたと思っているのです。
例えば、恋愛で言うと、理想の人柄や年齢、仕事、年収の人と付き合いたいと言っていれば、相手のことを理解したことになると考えているのと同じです。属性で区切って相手を理解しているつもりになっている
ようなものです。



それはありえないですね。



そうですよね。
このように、実際に目の前にいる人がどんな人かは観察して、話を聞かないとわからないことなのにもかかわらず、理解した気になっている会社が非常に多いと思います。



なぜ、机上の空論というか、モテない人みたいな感じになってしまう
のでしょうか?



結論としては、楽をしたいからです。
マーケティングは大変なことばかりですが、楽をして集客したいと思っているとお客様を理解した気になってしまいます。



マーケティングは、何をやってもうまくいかない中で、とにかく早く
成果を出す必要があります。
そういう時に、「AIを使えば自動で集客ができます」といった悪魔の
ささやきに騙されて、お金を取られて、結局うまくいかなかったという事例もよくあります。



顧客理解は本当に大事なことにもかかわらず、横に置いてとりあえず
広告やSNSの施策をやるとうまくいかなくなってしまうんです。



それではうまくいきませんよね。
では、その場合、会社としてどこから取り組めばいいのでしょうか?



まずは、お客様に話を聞きに行き、お客様と同じ動きをしてみること
です。
「実際どうなのか」というところに答えがあるのに、それを取りに
行こうとしないのは、意味がありません。
相手に直接話を聞くことが理想的ですが、直接話を聞けない場合は、
アンケートを活用してもいいでしょう。



顧客理解は、お客様インタビューをやっているのか、やっていないのかによって、天地ほどの差が出ます。



例えば、弊社の事例をご紹介しましょう。
弊社はマーケティング支援会社なので、
・マーケティングの成果が出るから
・さまざまな施策をワンストップできるから
・戦略を0から考えてくれるから
という理由で顧客から選ばれていると思われがちですが、実は
そうではありません。



そうなんですね。



実際に私が直接対応しているお仕事だと、
・言語化その他で困った時、すぐレスポンスを返して解決をしてくれる
・自分たちが思いつかなかった発想で集客の問題解決をしてくれる
などの理由で、お願いしていると言ってくださったりします。



しかし、お客様をわかった気になって、選んでくれている理由が
「マーケティングの結果が出せる」ことだと思い込んでいると、
お客様から選ばれる理由がわからないままになります。



直接お客様に聞かないと、事実はわからないですもんね。



はい。もちろんそれが理由で選んでくださるお客様もいるかもしれませんが、実際の答えはお客様が持っているため、話を聞きに行くことが、すぐできることだと思います。



新規事業の店舗や飲食店などで、まだお客様がいないケースでは
どうすればいいのでしょうか?



その場合でも、友人や仕事で過去に関わった人などを10人程度集めて、意見や感想などの素直なフィードバックを聞いてみるといいと思い
ます。



メニューを見ただけでも様々なフィードバックがもらえるはずです。



「このご飯が出てくるんだったら、日本酒が欲しい」
「日本酒はやっぱり組み合わせ的にいいよね」
「もう少ししょっぱいメニューを増やした方がいいのではないか」
「奇抜なメニューが多いから、鶏の唐揚げやだし巻き卵といった
定番の頼みやすいメニューが欲しい」
というような感想が出てくると思います。



確かに、友人や仕事関係の人だと感想や意見も言いやすいですよね。



そうです。既存のお客様がいないのであれば、お客様になりそうな人やお客様に近そうな属性の知り合いから、実際のお客様目線で見たときに
どう見えるのか、生の声を得ることは非常に価値があることです。



やらないより、やったほうがいいですか?



もちろんです。お客様と同じ行動をしてみることは、やらないより1人でも2人でもやったほうがいいでしょう。



例えば、ロードバイクが趣味の人が、ロードバイクのことを全く知らない人に、「ロードバイクって、いいよね」と言っても、ロードバイクの
良さは伝わらないと思います。
「自転車と同じでしょ?」といった感想になるかもしれません。



しかし、ロードバイクには「1台あれば小旅行ができる」「車だと行きにくいお店もすいすい行ける」といったようないいところが多くあります。
1度やってみればわかると思うのですが、多くの人はやりません。
今、なぜこの話をしたかというと、やらない人間には、やっている人間のことは絶対わからないからです。



確かにそうですよね。やらないと全然わかりません。



例えば、サッカーをやっていない人は、サッカーをやっている人が
サッカーを楽しいと思う理由や、サッカーがどんな時に辛くて苦しい
のか、どんな時に最高にいい気分になるのか、わからないんです。
サッカーでシュートを決めて1点入った時の、あの高揚感は言葉に
ならないと思います。



そうですね。
自分が体験してみないとわからない考えや感情は多くあると思います。



ロードバイクでも琵琶湖を1周走り終わった時の気持ちは、言葉に
ならないのです。
「疲れた」でもなければ、「楽しい」でもない。
「喜び」でもなければ、「達成感」でもないのです。
これを理解しているのかしていないかで、天地ほどの差が出るのです。



なるほど、わかりやすかったです。



はい。私は以前、釣り具メーカーさんのお仕事を承ったことがあるの
ですが、それまで釣りをしたことがありませんでした。



しかし、釣り具メーカーさんは、竿やリールの話をされたり、「この釣り具を、このような層に売っていきたい」と言う話をされたりします。



知識を得るために、私はその釣り具メーカーさんのホームページを見ました。そこで、いわゆる「スポーツフィッシング」と言われる領域が
あることを知りました。



大物を釣りに行ったり、ある程度厳しい環境でも釣りに行ったりする
領域なのですが、個人がなんとなく「週末に釣り堀に行こうかな」と
いった感じではないんです。



「釣りは戦い」と言う人もいるぐらい、戦いに身を投じるように、
真剣にやっている領域があることを知りましたが、実際にやったことがなくては理解できないのです。



知識だけでは限界がありますよね。



そうです。そして、その会社さんがやりたかったのは「あるリールを
スポーツフィッシングの領域ではなく、ファミリー層やライフスタイルを重視した人たちに売ること」でした。



「キャンプの時に、少し釣りもやってみよう」
「週末に釣りを子供に体験させるために、1回行ってみよう」
というようなライトユーザー層に売りたいという希望です。
しかし、このスポーツフィッシングに使用するものを、ライトユーザーが買うのだろうかと私は思いました。



そうは言っても、当時の私はスポーツフィッシングのことも理解して
いなければ、ライトユーザー層がどんな時に大変な釣りをやりたい
のか、そのリールを買おうと考えるのかもわかっていませんでした。



そうですよね。



そのため、私はとりあえず釣り具店に行き、6万円ぐらいかけて釣り具の一式を揃えました。
釣り具屋さんに行った時も、初心者なので、道具の種類も多いし、
右も左もわからない状態でした。



商品を手に取ってみても違いがわからないし、知識もないので、
1万5000円のものも7000円のものも、4000円のものと同じように
感じるわけです。しかも、選び方がわからなくてモヤモヤします。



そうすると、「もっと楽に選べるような、初心者向けのスターターセットのようなものはないのか」というような考えが出てきます。



壁を見ると釣り具の選び方が書いてあるボードが大きく貼ってある
のですが、専門用語が並んでいるんです。



・ドラグの詳細
・リールの溝の浅さ深さ
・リールには番手があること
・リールのグラム数、中に入ったベアリングの個数
のようなことが書いてあります。



しかし、この情報は「週末に少し山の方に行って、釣りを楽しみたい」という人からすると、正直なところ必要な情報ではありません。



専門用語が並んでいても、正直わからないですよね。



そうなんです。そのため、安いのを買えばいいと思っていながらも、
釣り具の店員に聞いてみると詳しく教えてくれました。



リールの番手というのは使う紐の太さによって変わるため、どのぐらいの速さで巻きたいのか、どこでやりたいのか尋ねられます。



そこで、川釣りでそんなに広くないところでやりたいという話をすると、「まずは1000番か2000番を買うといいよ」とアドバイスがもらえ
ます。



このように、どれを選ぶといいのか1個ずつ疑問を解消していきながら、やっとそれで買えるのです。



1つずつやっていくのは大変そうですね……。



はい。そのため、そういう過程を踏んでいる人間と踏んでいない人間
では、顧客理解に天地の差があるということになります。



リールを買おうと思ったら、他社のリールをWeb上で調べると、
・番手が何番か
・浅溝タイプなのか
・ギアタイプであるか
などのスペックが書いてあります。



しかし、それを真似して、こちらのスペックも同様に書いた方がいいと
思って書いても、おそらくライフスタイル層には売れないでしょう。



それよりも、「子供と週末に釣りに行くのならこのワンセット!」と1万5000円のセットで販売した方が絶対に売れると思います。



そうですよね。訳がわからないですもんね。



そうです。そこで私は、釣り具メーカーさんに提案として、
「リールを見に行ったのですが、訳がわかりませんでした。
リールとロッドの相性があるというのも、釣り具店に行って初めて
知りました。そのため、通販サイトで調べている人はもっとわからないと思います。



ロッドとの相性というようなことに、発想としてたどり着かない初心者の方は、検索もできず調べることも難しいと思います。
このリールに対して相性のいいロッドを最初からセットにしておくことはできないのですか?」とお話ししました。



そうすると、
「実は今、このブランドのラインは、あのリールしか作ってない」
という話だったので、
「それでしたら、このブランドのライフスタイルラインを作る時には、その中にロッドも入れてください」
という話をしました。



その後しばらく経ってから、ロッドも開発が進んでいるというお話が
ありました。



このように、マーケティングは顧客理解に基づいて本質的にやっていかないと、そもそも誰にも受け入れてもらえないことになります。



顧客理解をするためには、お客様に聞くことももちろん重要です。
そのうえで、自分自身がその言葉にならないモヤモヤや辛さ、苦しさを直接的に体験した方が、刺さるメッセージを打ちやすくなります。



直接的に体験することが大切なのですね。



はい。そのため、
「釣り具店も、いろいろあって迷いますよね。 その中でも、とにかく
これがあれば、こういうことができます。
週末、お子さんとキャンプに行った時に、そばに流れる川で一緒に釣りの体験をしてみたくないですか?」
これだけでいいと思います。



そうですね、非常にシンプルでわかりやすいと思います。



そうは言っても、「初心者セットのようなものだと、壊れたら不安」
という方もいると思います。



その場合は、本気の釣り具メーカーであるスポーツフィッシングを
扱っている釣り具メーカーが、ライフスタイルラインで出している
ため、品質の高いものを作れることをアピールします。



本格的に趣味にしたい場合でも、持っていても恥ずかしくない1品という形で売り出す方が売れると思います。



このように、お客様と同じ動きをしてみて、そこから発想を膨らませることも必要だと思っています。



非常にわかりやすかったです。 顧客理解が大事だということを社内で
受け入れてもらうためには、どんなことをするといいのでしょうか?



実際、中小企業において、マーケティングの理解がある会社は多くありません。最初からマーケティングをわかってもらうために、「顧客理解が大事」と声高に叫んだところで、結果は出ないでしょう。



そのため、相手がわかる言語に変換してあげる必要があります。



例えば、営業部署の方に理解をしてもらおうと思ったら、相手がわかるよう、営業の文脈に言い換えて伝えることが大切です。



わかりました。ありがとうございます。
では、この記事を見てくれている読者の方に、最後に一言お願い
します。



はい。顧客理解は、経営やマーケティングをやる上で必須です。
そのため、必要かどうかといった議論はすべきことではありません。



万が一、顧客理解をすべきかという議論をしているのであれば、
正直なところ、赤信号だと思っていただいた方がいいと思います。



しかし、ただやっている気にさせるようなマーケティングのツールや、よく出回っているノウハウが多いため、騙されないようにすることも
大切です。



ペルソナ設計やターゲット設計などの、それらしい名前が並んでいて、AIの使用を促されたり、それらしい内容を提示されるのですが、それをやったから顧客理解ができたと考えるのは早計です。



それよりも、多少お金や時間をかけてでもやるべきことは、実際のお客様の声を聞きに行くことと、お客様と同じ行動をしてみることです。



特にBtoC向けに商品を売っているのであれば、「その商品を使ってみた
ことがあるか」を、自社の担当者に聞いてみてください。



以前、弊社でマウスウォッシュの広告を担当した際にも、マウスウォッシュの試用品をいただいて、使ってみてどういう感覚を得たかフィードバックを当たり前にしていました。



そのため、もし広告を自分たちで回しているのであれば、まず使って
みましょう。
商品・サービスを使うこともそうですが、商品・サービスを使うところに関連するシーンに、自分が実際立ち会ってみるのもいいでしょう。



先程の釣り具の例で言うと、リールを買おうと思うと、リールだけではなく、ロットや糸、ルアーも必要で、いろいろ揃える必要があります。



それぞれに専門用語や考えることがあるため、この周辺の領域を
まとめて体験すると、リールとの相性を考えるようになります。



実際に使うときも同様です。
2つ目を買った際に、「このリールは1回目に買った安いものとは少し
違う」という感想を持ちました。
回転が速く楽なので、非常にゆっくり巻いてもちゃんとルアーが潜ってくれるというのを体感しました。



スペック表には書いてあって、比較するとわかるという情報は、
プロや知見のある人は理解できるかもしれませんが、知らない人が
見ても全くわかりません。



このように、自分が実際に、言葉になりにくいものを感じて、
それをどうやってマーケティングに生かすのかを考える必要が
あると思っています。



そのため、顧客理解を深めるためには、体験してみることから逃げないことが最も重要なことだと思います。



ありがとうございます。

