アンカリング効果は、はじめに提示された数字や情報によって、無意識のうちに判断が左右される心理学における認知バイアスの1つです。アンカリング効果をマーケティングに活用すると、計画的な商品やサービスの販売につながるでしょう。
この記事では、マーケティングにも応用できるアンカリング効果の方法と具体例を紹介します。自社のマーケティングに活用したい方はご覧ください。
心理学におけるアンカリング効果とは?
アンカリング効果とは、はじめに提示された数字や情報を基準に考え、そのあとに提示された別の情報や数字への認識が歪んでしまう現象です。アンカリング効果は、心理学や行動経済学で扱われる認知的バイアスの1つとされています。
例えば、顧客に服を購入してもらいたいときに最初に高価格な服を見せておくと、販売したい価格帯の服を顧客が購入する可能性が高まるといったものです。
船のいかりが語源
アンカリング効果の語源は、船のいかり(アンカー)を意味していて、「アンカリング」は船のいかりを下ろして船をつなぎとめる意味をあらわします。
人が数字や情報といったアンカーを打たれ、身動きを取れない状態が海にいかりを下ろした船に見立てられるため、アンカリング効果と名付けられました。
アンカリング効果に似た心理効果
アンカリング効果に似ている心理学効果の1つに「フレーミング効果」があります。フレーミング効果は、提示方法によって消費者の意思決定が左右される現象です。
両者の違いは「情報提示のどこに重きを置くか」です。アンカリング効果は「情報を提示する順番」で、フレーミング効果は「情報の提示方法」が重要視されています。
定価10万円の商品を2万円で売るときのアンカリング効果とフレーミング効果の違いは以下の通りです。
- アンカリング効果:2万円を印象づける→「定価10万円のところを2万円で販売」
- フレーミング効果:定価の20%の価格である事実に着目し表現を変える→「定価の80%オフ!」
提示する金額は同じでも、顧客からすると商品価格の印象が全く異なって見えます。どちらも顧客の心理を利用して商品やサービスの購入を促す施策の1つです。
心理療法のアンカリングとは別物
アンカリング効果と似た言葉に「アンカリング」があります。どちらも同じ言葉を使用していますが、全く別の概念です。アンカリングとは、特定の刺激をきっかけに特定の心理状態を引き出すものとされています。
例えば、緊張状態にあるとき、コーヒーを一杯飲むと落ち着く、もしくはイライラしたときにベルガモットの香りを嗅ぐと平常心に戻れるなどです。ある特定の行動をとると気分が入れ替わる、集中力のスイッチが入るなど感情をコントロールできるようになるのが、心理療法のアンカリングです。
アンカリングは、日々の体調や気分に左右されず最高のパフォーマンスを発揮する方法で、アンカリング効果とは全く別物と捉えましょう。
アンカリング効果の日常生活における具体例
日常生活のいたるところでアンカリング効果を利用した販促がされています。身近な例でいうと、スーパーマーケットや家電量販店では、アンカリング効果が利用されている場面と遭遇する機会があります。実際に、アンカリング効果が利用されている具体例を見ながら、まずは心理効果がどのように働いているのか認識することから始めましょう。
商品に割引シールを貼り付ける
スーパーマーケットやアパレルなどの小売店では、売れ残りを防ぐために割引シールが使われています。これは割引シールを使うことでアンカリング効果が期待できるからです。新しい値札に変えるのではなく、もともとの値段をあえて残して消費者に割安感を感じさせることで、商品の購入を促せます。
また、本来の価格と本日限りの割引価格のどちらも記載された値札も、アンカリング効果を利用したマーケティングの1つです。
期間限定や先着順と表示する
期間限定や先着順といったプレミア感を出す表示方法も、アンカリング効果の一例です。商品に特別な価値がなくても、この機会を逃すと商品を購入できない可能性があると感じた顧客の中には、焦って商品を購入する人もいるでしょう。
また、「残り在庫3点」と表示する方法も有効です。いわゆる衝動買いをする顧客は、このテクニックに翻弄されている例といえるでしょう。
スケジュールを遅めに伝えた上で、早めに納品する
顧客に対して事前に伝えたスケジュールよりも早く納品する戦略も、アンカリング効果の一例です。取引先に対して「この会社は仕事が早い」といった印象を与えられるため、次回の取引につながる可能性があります。
また、即日受け渡しや即日配達など時間に関係する情報なども、アンカリング効果を利用したマーケティングの1つです。
マーケティングでのアンカリング効果の活用例
商品やサービスの販売を行うときのアンカリング効果の活用法が気になる方も多いでしょう。これから紹介する活用例を参考にすると、アンカリング効果をプロモーションに組みこみやすくなります。詳しくみてみましょう。
事例1:メーカー希望小売価格
メーカーが「当社の商品の価格は〇〇円」と提示する価格が、メーカー希望小売価格です。しかし、あえて表示方法を変え「メーカー希望小売価格が10,000円のところ、30%引きの7,000円」とすると、消費者に対して商品のお得感をわかりやすく演出できます。
通常価格よりも値下げが強調された表示は、商品がいつもより安くなっているイメージを顧客に植え付けます。その結果、購入のハードルが下がり、消費者の購入を促せるかもしれません。
ただし、メーカー希望小売価格から割引されているのが定着してしまうと、商品のブランド価値を下げてしまう可能性があります。表示のタイミングや割引度合いのバランスを調整しましょう。
事例2:商品やサービスの価格設定
商品やサービスでは、しばしば高額の商品を提示してから低価格の商品が提示されます。これは、一度高額の価格を提示することで、低価格の商品を購入するハードルが下がり、商品の購入につながりやすくなるからです。
例えば、5,000円のコース料理を売りたいと考えたとします。このとき、10,000円のコースをメニューに加えると、5,000円のコースを選ぶハードルが下がるでしょう。その結果、5,000円のコースの注文が入りやすくなる、といった具合です。
価格設定だけでなく、料理に使用する食材のこだわりを提示したり、お店の内装を豪華にしたりするのもよいでしょう。「高くてもこのお店の料理を食べたい」と消費者に思わせられるので、アンカリング効果が発揮されます。
アンカリング効果を使った具体的なマーケティング方法
アンカリング効果を利用して商品やサービスの販売につなげるためには、適切な手順を踏む必要があります。アンカリング効果を用いた具体的な手法を順番に解説します。
1:情報を集める
まず、自社と類似した商品の価格情報を集める必要があります。相場とかけ離れすぎた価格を提示してしまうと、商品の販売につながらないため、事前の情報収集は重要です。
自社と似通った商品、特に競合先になる商品の価格は必ずチェックしましょう。
2:集めた情報をもとに実行に移す
集めた情報をもとに、まずは適正価格を決めます。そして適正価格をベースに、最初の提示価格や割引後の価格を設定しましょう。
価格設定ができたら、どのように表示や提示するかマーケティング戦略を練ります。最初は少し高額と感じる価格、その後顧客が納得する元の価格、さらにお得と思う売値の順に提示すると、アンカリング効果がより高まるでしょう。
3:結果を分析する
アンカリング効果が商品の売上に反映されているかどうか、マーケティングの結果を分析します。商品の購入経路は店舗とネットのどちらが多いのか、ネットで販売するならどのページからの購入が多かったかなど、アクセス解析とともに条件を分析しましょう。
分析した結果をもとに、改善点を見つけ出し、次回のマーケティングに活かします。
4:割安感をアピールする方法を検討する
売上を上げるために、割安感をアピールできる最適な方法を選ぶのも施策の1つです。商品の割安感を顧客にアピールする方法はさまざまあります。例えば、売りたい商品の隣に超高額商品を並べたり、ほかの商品と組み合わせてお得なセットを作ったりなどです。
販売したい商品の特徴をすみずみまで把握し、顧客が魅力的に見えるようなアピール方法を検討することが重要です。
5:考察と実行を行う
結果を分析したあとは、アンカリング効果をより有効に商品の販売につなげる方法を考えて、再度実行に移します。アンカリング効果がいまいち発揮されていないと感じる場合、ほかのマーケティング施策とアンカリング効果を同時に実行することも検討しましょう。
例えば、顧客に損失を想起させるプロスペクト理論とアンカリング効果を同時に実行すると相乗効果が期待できるため、違う角度から顧客にアプローチできます。
アンカリング効果のメリット・デメリット
アンカリング効果には、メリットとデメリットがあります。メリットとデメリットを考慮した上で、自社の商品やサービスへの利用を検討しましょう。
メリット|顧客の判断に影響を与えやすい
アンカリング効果は、顧客の判断に影響を与えやすくなるメリットがあります。はじめに提供した情報が判断基準となって、そのあとの情報と比較できるためです。
顧客が商品の購入やサービスの利用を考えているとき、アンカリング効果によってお得感を感じれば、商品やサービスの購入を後押しできます。商品の売上向上につながり、顧客も安心して購入できるでしょう。
特に新規の顧客であれば、まずは自社の商品やサービスを試してもらうためにも、アンカリング効果を活用した販促は有効です。
デメリット|売上に直結するとは限らない
アンカリング効果は、必ずしも値下げや割引が効果を発揮して売上につながるとは限りません。そもそも顧客が商品に関心がなければ、アンカリング効果を利用しても購買意欲をそそらないでしょう。アンカリング効果だけに頼るのではなく、マーケティングの戦略の1つとして商品を売り出す必要があります。
また、顧客が相場を知っている価格のものは、値下げしても効果を発揮しづらい傾向です。例えば飲料や菓子類などが該当します。相場の情報が浸透していない商品やサービスなど、アンカリング効果を発揮しそうなものを選んでマーケティングにつなげるのが重要です。
アンカリング効果の注意点
アンカリング効果の使い方を間違ってしまうと逆効果になり、商品が全く売れない可能性があるので注意が必要です。アンカリング効果を利用する際の注意点を3つ紹介します。
景品表示法に気をつける
アンカリング効果を商品やサービスに利用するときは、景品表示法違反に該当しないように注意しなければなりません。景品表示法とは、商品やサービスの価格や内容、品質などの偽った表示を規制する法律です。
実際の品質より優れているように見せたり、実際にかかる値段より安く案内していたりすることが景品表示法違反に該当します。消費者庁がガイドラインを記載しているので、ガイドラインに則って、不当な表示にならないよう注意しましょう。
非常識な価格設定は効果が得られない
商品やサービスの相場から大きく外れた価格設定をすると、消費者に不信感を持たせ、反対に消費者の購買意欲を削いでしまうため注意が必要です。
例えば、他社で3,000円で販売されている商品を、自社が「通常6,000円のところ、3,000円」と提示しても、商品の売上にはつながらない可能性が高いです。反対に「いつもは他社の2倍の価格で売っているのか」と消費者に思われるでしょう。
特に顧客が判断力に長けていたり価格相場を理解していたりする場合、提示された金額を見て販売側に対して印象が悪くなる可能性もあるため、価格設定は慎重に行なってください。
情報(アンカー)次第で結果が変わる
アンカリング効果を使用する際には、情報(アンカー)を熟考する必要があります。アンカリング効果の影響を受ける方は、前提となる情報から思考を膨らませ、情報が不確実になってくる辺りで結論を出す傾向にあるからです。
情報の設定を誤ると、望んだ結果が得られない可能性があります。提示する情報は慎重に設定して、結果によっては情報の見直しをしましょう。
まとめ
アンカリング効果を利用すると、戦略的な商品やサービスの販売促進が可能です。心理効果を活用したプロモーション戦略を成功させるには、商品やサービスの細かな情報を把握しておく必要があります。
自社の商品やサービスに適用する際は、アンカリング効果のメリットとデメリットを考慮した上で活用するようにしましょう。
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