「PEST分析はどんなときに活用するフレームワークか知りたい」「フレームワークを活用してマーケティング戦略を具体的に立てたい」このように考えているWebマーケティング担当者もいるでしょう。
PEST分析は外部環境が自社に与える影響を予測する際に活用するフレームワークです。この記事では、PEST分析の意味や目的、実践方法のほか注意点をわかりやすく解説します。また、業界別の事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
PEST分析とは
PEST分析は、外部環境が自社に与える影響を予測するために活用するフレームワークです。「Politics（政治的）」「Economy（経済的）」「Society（社会的）」「Technology（技術的）」と4つの要素に基づいて、マクロ環境分析を行います。マクロ環境分析は、自社に間接的に影響を与える外部要因を分析するものです。
PEST分析では、市場環境を5年、10年と長期的な視点で捉えて分析を行います。このフレームワークは世の中の変化を戦略的に活用し、企業を存続させるために不可欠です。そのため、経営戦略やマーケティング戦略などを立案する際に広く用いられます。
PEST分析の目的
PEST分析を通じて外部環境を把握することで、より効果的なマーケティング戦略を立案し、事業の成功につなげられます。競合や市場環境を分析せずに戦略を立てると、外部環境の影響を大きく受けてしまい、期待した効果を得られない可能性があります。そのため、PEST分析は効果的な戦略を立案するには欠かせないフレームワークです。
また、市場環境は常に変動しているため、継続して観察しなければなりません。しかし、すべての変化を観察するのは困難です。PEST分析を用いて社会や経済の状況を体系的に分析し、市場の変化を予測することが極めて重要です。分析に基づき市場環境を予測できれば、事業の成功につながります。
PEST分析の4つの要素
PEST分析は、以下4つの要素で構成されています。
- Politics｜政治的
- Economy｜経済的
- Society｜社会的
- Technology｜技術的
それぞれの要素を以下で詳しく解説するので、フレームワークを活用する際の参考にしてください。
Politics｜政治的
Politicsは、政治・法律・税制などの政治的環境要因です。これらの動向を追い、自社に対する影響を予測します。具体的には、以下の要因が挙げられます。
- 法律の改正
- 税制の改正
- 裁判制度の改正
- 市民団体の動向
- 外交政策 など
例えば、国際情勢の変化は貿易に大きな影響を与えるため、輸出入を行う企業にとって重要な要因となるでしょう。
これらの情報はニュースや新聞を通じて定期的に動向を把握し、どのように変化していくかを予測しなければなりません。より詳細な分析が必要であれば専門的なデータを参照し、戦略立案に活用しましょう。
Economy｜経済的
Economyは、景気や経済動向などの経済的環境要因です。具体的には、以下の要因が挙げられます。
- 景気の動向
- 金利の変動
- 為替のレート
- 経済成長率
- 失業率
- 金融政策 など
経済状況は日々変動するため、企業の利益に直接的な影響を与える可能性があります。また、国外の経済状況は国内経済にも影響を及ぼします。そのため、国内外の経済状況を注視することも重要です。
特に金融政策の変更は市場に大きな影響を与えるため、動向を定期的にチェックしておきましょう。これらの経済的環境要因を総合的に分析することで、効率的な戦略の立案につながります。
Society｜社会的
Societyは、人口の変化や文化といった社会的環境要因です。具体的には、以下の要因が挙げられます。
- 人口の変化
- 世帯構成
- 世論の動向
- 教育水準
- 犯罪率
- 健康意識
- 文化的傾向 など
現在の日本は少子高齢化が大きな課題となっています。そのため、少子化や高齢化といった課題を踏まえた経営やマーケティング戦略の実行が不可欠です。
例えば、高齢者向けの健康食品やバリアフリー住宅などの需要増加、学校数の減少といった社会的要因を詳細に分析し、将来の変化を予測しなければなりません。このような社会的要因を把握することで、新たな機会の発見につながります。
Technology｜技術的
Technologyは、新技術の開発や普及といった技術的環境要因です。具体的には、以下の要因が挙げられます。
- 新技術の開発・普及
- インフラの進化
- 特許の動向
- 技術投資の傾向 など
技術的要因の具体例として、スマートフォンや動画・音楽配信サービスの普及が挙げられます。これらの技術は日常生活を効率化させる一方で、従来の商品やサービスの需要を減少させる可能性があります。
ITやAIの革新により衰退していく商品やサービス、技術がある中で、企業がどのように最新の技術を取り入れるか検討する必要があるでしょう。自社の強みを活かせる分野を発見し、そこに注力することが求められます。
PEST分析の実践方法
PEST分析の実践方法は、以下の通りです。
- 情報を4つの要素に分類する
- 情報を事実と解釈に分類する
- 事実を自社にとっての機会か脅威になるかを分類する
- 期間の長さにより分類する
それぞれを詳しく解説します。
4つの要素に情報を分類する
はじめに、自社に関連する信頼性の高い一次情報を収集します。関連する情報は豊富にあるため、無計画に収集せず、新聞や専門誌、講演会などから厳選して収集してください。そのうえで、政治・経済・社会・技術の要素に情報を振り分けます。
例えば、環境規制は政治的な要因であり、自社商品やサービスの開発に影響する技術的要因としても分類できます。そのため、正確に分類するよりも、自社に影響を及ぼす可能性のある情報に重点を置くことが重要です。
情報を事実と解釈に分類する
収集した情報を「事実」と「解釈」に分類します。事実は「客観的な出来事や数値データ」、解釈は「個人の理解や見解」になります。このように分類することで、主観的な事業戦略の策定を避け、根拠に基づいた計画の策定が可能です。
例えば「日本の経済成長率は1.5％」は、客観的なデータであり事実に分類されます。一方、「この数値は景気回復を示している」は、個人的な見解であるため解釈と分類できます。事実と解釈を明確に分類できれば、より精度の高いPEST分析を行えるでしょう。
事実を自社にとっての機会か脅威になるかを分類する
事実と判断した情報を自社の視点から「機会」と「脅威」に分類します。機会は自社にとってチャンスになる要因、脅威は自社にとってリスクとなる要因です。
機会と脅威は表裏一体で、ある企業にとっての脅威は自社にとっての機会にもなりえます。そのため、必ず自社に対しての影響を考えましょう。また、脅威の中にも事業に活かせるチャンスがあるかもしれません。広い視野で多角的に分析することが重要です。
期間の長さにより分類する
外部環境の影響は短期的か長期的かを予測し分類してください。想定している期間が異なると、事業の方向性が乱れてしまいます。そのため、自社に影響のある要因を時間軸で整理しましょう。そうすることで、社内での共通認識を持てます。
例えば、人口動態の変化は長期的に起こると考えられます。これに対し、原材料価格の高騰のような変化は短期的に起こる事象です。このように、時間軸に分けて戦略を検討することがPEST分析では重要です。また、戦略を策定するために議論をする場合は、分類した情報を時間軸に基づいて検討する必要があります。
PEST分析を実践する際の注意点
PEST分析を行う際の注意点は以下3つです。
- 短期間の分析には不向き
- 情報収集は定期的に行う必要がある
- 外部環境のみしか分析できない
それぞれの注意点を具体的に解説します。
短期間の分析には不向き
PEST分析は経済や社会といった外部環境を分析するフレームワークです。経済情勢や社会情勢は短期間で大きく変化するものではありません。そのため、1ヵ月など短期的なマーケティング施策には不向きです。数年単位など中・長期的な施策を検討する場合に活用するとよいでしょう。
例えば、経済成長率や失業率の変化などの経済的要因、人口動態や消費者行動の変化など社会的要因は長期的に変化すると考えられます。期間を考慮してフレームワークを効果的に活用し、将来の機会やリスクを予測してください。
情報収集は定期的に行う必要がある
外部環境は常に変化するため、大きな変化がいつ発生するかわかりません。定期的に社会の動向を追い、情報収集を行うことが必要です。例えば、国内外における経済情勢の変化・技術の進歩・世界の環境変動などが挙げられます。
また、機会が脅威に、脅威が機会に変化する可能性もあるため、情報収集は定期的に行いましょう。定期的な情報収集により、変化をいち早く察知できれば、迅速にフレームワークまたは施策へ反映できます。
外部環境のみしか分析できない
PEST分析は外部環境の変化を対象としたフレームワークであり、内部環境の分析には対応していません。そのため、ほかのフレームワークを組み合わせることで、より効果的な戦略の立案が可能です。
例えば、内部環境を分析する際にはSWOT分析を活用するとよいでしょう。また、複数のフレームワークを組み合わせて、内部環境と外部環境を分析できれば、より具体的な戦略の立案につながります。ビジネスでは内部環境も外部環境も大切なため、計画段階から内容を詰めておきましょう。
PEST分析を活用したマーケティングの事例
PEST分析は業界を問わず活用できるフレームワークです。PEST分析を活用したマーケティング事例を以下3つの業界に絞って紹介します。
- アパレル業界
- SaaS業界
- コンビニ業界
各業界で外部環境の影響をどのように分析し、戦略に反映させたのか具体的に見ていきましょう。
アパレル業界
世界に展開するアパレル企業のPEST分析は以下、表の通りです。
| Politics（政治的） | ・環境規制の厳格化により、使用する素材などに制限がかかる ・関税の改正により輸出入に影響がでる |
| Economy（経済的） | ・消費者の所得や経済成長率が需要に影響を与える |
| Society（社会的） | ・ファッションに対する意識や消費行動が時代とともに変化する ・SDCsや消費者の関心の高まりが影響を与える |
| Technology（技術的） | ・メディアやネット市場の発展が宣伝や販売に影響を与える ・製造の効率化が進む |
上記のようにPEST分析をすることで、各要素の影響を考慮した戦略が立てられます。そして、その国に適したマーケティングを展開し、企業の成長を促進できるでしょう。
SaaS業界
インターネットを活用してサービスを利用できるSaaS業界の企業におけるPEST分析は以下、表の通りです。
| Politics（政治的） | ・データやプライバシーに関する規制が強化される ・コロナウイルスの蔓延によるリモートワークが推進される ・IT化推進のための補助金制度がある |
| Economy（経済的） | ・クラウドサービスの市場が拡大している ・景気変動の影響が出る ・コスト削減に対するニーズが高まる |
| Society（社会的） | ・世代間の情報格差が存在する ・クラウドサービスの需要が拡大している ・リモートワークが普及している |
| Technology（技術的） | ・AIや機械学習など最新技術が開発されている |
これらの要因が関連し、SaaS業界は急速に進化しています。また、SaaS業界は動向の変動が激しいため、外部環境の把握が特に重要です。
コンビニ業界
コンビニは多くの店舗があり競争が激しい業界です。全国各地に展開しているコンビニ業界のPEST分析は以下、表の通りです。
| Politics（政治的） | ・タバコやアルコールの税金が高騰している ・健康食品の推進が広がっている |
| Economy（経済的） | ・消費者の所得や消費行動が変化している ・経営の効率化やコスト削減が求められている |
| Society（社会的） | ・健康志向が高まり、低カロリー商品や健康食品の需要が増加している |
| Technology（技術的） | ・決済技術の進化により、消費者の利便性が向上している ・オンライン注文などにも対応しており、さらに手軽に利用できる |
4つの要素に適応しつつ、消費者のニーズに合わせた施策が必要です。そのため、消費者を中心とした戦略の立案が効果的です。
まとめ
PEST分析は社会や経済の動向など外部環境を把握するのに適したフレームワークです。実践する際は、こまめな情報収集と事実・解釈を混同しないように気をつけましょう。また、外部環境にしか適用できないためSWOT分析など内部環境を分析できるフレームワークと組み合わせて実施するのが効果的です。
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