マーケティングを勉強している方の中には、返報性の原理という心理学を知っている方もいるでしょう。返報性の原理は、顧客との関係性を構築する場面や、無料お試し・初回割引などのように購入を促進する場面で活用されています。
そこで本記事では、心理学的な視点から、返報性の原理の基礎知識や活用法、注意点などを紹介します。
うまく活用すれば顧客とよい関係性を築き、購買意欲を高める効果が期待できるので、マーケティング施策を策定する際の参考にしてください。
心理学「返報性の原理」とは?
返報性の原理とは、ビジネスやマーケティングによく活用される心理学テクニックの一つです。以下の2つで、返報性の原理について詳しく解説します。
- 心理学「返報性の原理」をわかりやすく解説
- 心理学者「デニス・リーガン」の実験
返報性の原理を活用するには、基礎を学ぶことが大切です。まずは、返報性の原理の概念を解説します。
心理学「返報性の原理」をわかりやすく解説
人から何かをもらったときに、「お返しをしたい」と感じる心理的な傾向を返報性の原理とよびます。例えば、店員の丁寧な接客を受けたときを想像してください。当初は購入するつもりがなくとも、親切な接客態度から、つい商品を購入してしまった経験がある方も多いでしょう。
この現象の背景には、人から好意を受けたときに「お返しをしたい」と働く人間の心理が関係しています。
一方で、敵意に対しても好意と同様に「報復したい」と感じる傾向があり、相手の行動に対しマナー違反を感じると、攻撃的な感情を抱きます。敵意に対して同様の敵意を抱いたりするのも、返報性の原理から来る自然な心の動きです。
心理学者「デニス・リーガン」の実験
デニス・リーガンは、返報性の原理を実証する実験を行った心理学者です。この実験では、2人1組の被験者に以下の2つのパターンが用意されました。
- 実験者が自分の飲み物だけを購入し、被験者に福引券の購入を促す
- 実験者が自分と被験者の両方の飲み物を購入し、被験者に福引券の購入を促す
実験の結果、Bのパターンでは、実験者から飲み物を渡されたことで、被験者は返報性を感じ、福引券の購入率がAのパターンの約2倍に上がることがわかりました。
つまり、好意を受けた被験者は、その好意に報いるため、福引券を購入する傾向が高くなりました。この結果は、人は何かをもらうと、それに対する返報性の原理が働くことを実証しています。
パターン別|4つの返報性の原理
返報性の原理には、4種類のパターンがあります。ここでは4つの返報性の原理についてそれぞれ解説します。
- 好意の返報性
- 敵意の返報性
- 自己開示の返報性
- 譲歩の返報性
以上の4つのパターンは、返報性の原理を知る上で基本的な活用法です。有効に活用するためには、4つの基礎を覚えておくと便利です。それぞれ種類別に実例を交えて学んでいきましょう。
好意の返報性
「好意の返報性」とは、自分が好意を示せば、相手も好意を返してくれることを指します。
- 相手に親切にすると、相手も親切にしてくれるようになる
- 相手に挨拶をすると、相手も挨拶を返してくれる
- 相手を褒めると、相手も自分を褒めてくれる
このように、日常生活の中で相手から好意を受けると、無意識のうちにその好意に報いたくなる心理作用が生じます。これが、好意の返報性です。
好意の返報性を活用すれば、恋愛やビジネスの場面で効果的なアプローチができます。例えば、異性に好意を持ってほしい場合、自分から積極的に好意を示すことで、相手も自分に好意を持ってくれる可能性が高まるでしょう。
ビジネスでは、顧客に対して有益な情報を提供することで、顧客の好意を得られるケースもあります。
敵意の返報性
好意の返報性に反し、敵意の返報性もあります。これは、相手から敵意を向けられたときに、同様の敵意を返したくなる心理的傾向です。
- 相手から悪口や嫌な言葉を浴びせられると、同じように言い返したくなる
- 相手が横柄な態度を取ると、自分も同じように傲慢な態度を取ってしまう
- 相手から無視や冷遇を受けると、自分も相手を無視や冷たくしたくなる
このように、誰かから嫌な思いやネガティブな感情を受けると、それに対して同じように「仕返し」や「復讐」をしたくなるのが、敵意の返報性です。つまり、好意の返報性と反対の概念が、敵意の返報性です。
自己開示の返報性
「自己開示の返報性」とは、自分が他者に対して、プライベートな情報を開示すれば、相手も同程度の自己開示をしてくれることを指します。
- 初対面の方に自分のことをオープンに話すと、相手も同様に自分のことを打ち明けてくれる
- 友人に悩みを打ち明けると、相手も自分の悩みを話し始める
- デートの相手にプライベートな話を切り出すと、相手も同じように個人的な話をしてくれる
このように、率先して情報を開示することで、相手も安心して自己開示をするようになります。プライバシーに関わる情報は慎重にならざるを得ませんが、自分が開示すれば相手も同じように開示したくなるのが自己開示の返報性です。
自己開示の内容を使い分けることで、コミュニケーションをスムーズに進められるでしょう。
譲歩の返報性
相手が自分のためを思って譲歩してくれると、心理的に「相手の譲歩に応えなければ」と感じるのが譲歩の返報性です。
- エレベーターに乗る際、相手に「あなた先に」と譲ってもらうと、降りるときは自分から「どうぞ」と譲りたくなる
- 商品を購入する際、店員に値引きしてもらうと、思っていた以上の金額でも購入してしまう
- 交渉の場で、相手が一度譲歩してくれた場合、次は自分が譲歩したくなる
譲歩の返報性を意図的に利用した交渉テクニックに「ドアインザフェイステクニック」があります。最初に過剰な要求をして断られ、次に本命の要求をすると、先の断りに罪悪感を抱いた相手が2つ目の要求を受け入れやすくなる、というものです。
返報性の原理のマーケティング活用法を5つ紹介
返報性の原理には、以下の5つのマーケティング活用法があります。以下のテクニックを理解しておけば、ビジネスやマーケティングなどで使えます。
- 無料サンプルを提供する
- 初回無料・割引サービスを提供する
- 接触頻度を増やす
- SNSの「フォロー」「いいね!」できっかけをつくる
- 役立つ情報を発信する
ここでは、返報性の原理の実例を交えて詳しく解説します。
無料サンプルを提供する
スーパーや化粧品の無料サンプルの提供には、返報性の原理が活用されています。例えば、スーパーで試食品を食べると、「1つは購入しなきゃ」といった意識が購買者に生まれるでしょう。無料で試食品を提供することで返報性が働き、「1つくらい買わないと」といった心理が誘発されます。
これは、昔から見られた返報性の原理の典型的な活用シーンだといえるでしょう。
化粧品の無料サンプルの提供も、返報性の原理を利用したサービスです。無料で気になる商品を試せることで、「購入した方が恩を返せる」といった心理的な作用が働きやすくなります。
無料サンプルを試したことで、購入にいたった経験がある方も多いでしょう。「無償で商品をもらう」ことによって返報性の法則が働き、「商品を購入したい」心理が働きます。
初回無料・割引サービスを提供する
返報性の原理をマーケティングに活用する典型的な手法が、「初回無料・割引サービス」の提供です。例えば、サブスクリプションサービスは初回無料の場合が多い傾向にあります。これは、無料で一度利用してみると、「無償でサービスを受けられたので、次は有料で継続しないと」とユーザーが考えるからです。
マーケティングの世界では、このような無料で提供する商品やサービスを「フロントエンド商品」とよびます。顧客に対して最初に無料で何かを与えることで、「特別な好意を受けた」と感じさせ、返報性を引き出そうとする戦略です。
よく見かける「初回限定◯%OFF」のキャンペーンも同様、割引価格で初回購入することで、「次は通常価格でもよい」と顧客に思わせる効果が活用されています。
接触頻度を増やす
返報性の原理をマーケティングに活用する上で、顧客との接触頻度を増やすことは有効な戦略となります。ポイントは、単に接触するだけでなく、接触の度に顧客にとって有益な情報やプレゼントを提供することです。そうした結果、顧客側に「何かお返ししたい」と心理が働き、結果として商品やサービスの購入につながります。
例えば、定期的に顧客とコンタクトを取り、その都度「業界の裏話」や「一般には伝えられない情報」など、価値ある内容を提供しましょう。
このようなアプローチには、返報性の原理の中でも特に「自己開示の返報性」が大きく作用します。つまり、プライベートな情報を開示してもらったことに対して、顧客も自身の情報を開示したくなる心理が働きます。
SNSの「フォロー」「いいね!」できっかけをつくる
SNSにおける「フォロー」や「いいね!」の機能は、返報性の原理を活用するのに適したツールです。例えば、自分の投稿にフォロワーがリアクションをくれた場合、その方への恩義を感じ、お返しとして相手の投稿に「いいね!」を付けたくなる心理が働きます。これは好意の返報性が作用したものです。
しかし、単に「フォロー」や「いいね!」を大量に付けまわるだけでは、SNSのアルゴリズムに嫌がられ、むしろ投稿の表示を制限されるリスクもあります。「いいね!」は、あくまで相手に対する好意の表れとして自然に行いましょう。
このような好意のやり取りを通じて、徐々に信頼関係が構築され、リピート購買やファン化につながる可能性が高まります。
役立つ情報を発信する
返報性の原理をマーケティングに活用する有効な方法の1つが、ユーザーに対して役立つ情報を無料で発信することです。
企業がSNSやウェブメディア、YouTube等を通じ、ユーザーのニーズに合った有益な情報を提供しているのを目にしたことがある方も多いでしょう。企業やブランドへの信頼感が高まり、好意に対する返報として、商品やサービスに興味を持つようになる仕組みです。
実際に、多くの企業が自社公式のオウンドメディアやYouTubeチャンネルを開設し、広告的な要素は薄めにしつつ、ユーザーが求める情報を中心に発信しています。これらの情報発信は単なるPRだけでなく、返報性を意識した長期的なマーケティング戦略となっています。
返報性の法則を活用する際の注意点は?
返報性の法則を活用する際は、以下の3つの注意点があります。ビジネスやマーケティングに限らず、恋愛や日常生活でも、過度に返報性の法則を使いすぎてはいけません。
- 過剰に与えすぎない
- しつこく見返りを求めない
- バランスを考える
活用の方法を誤ると、相手に嫌悪感を与えてしまう可能性があります。正しく使用できるよう、学んでいきましょう。
過剰に与えすぎない
相手に対して高額な贈り物をしたり、頻繁に何かを無償で与えすぎると、かえって相手に心理的負担を強いてしまう可能性があります。
例えば、予想以上に高価なプレゼントをもらった場合、「これを受け取ってよいのだろうか」と戸惑いを感じるでしょう。自分のできる範囲を超えた「返報」を求められてしまうと、かえって関係が損なわれてしまいます。
つまり、返報性の原理は、過剰に与えすぎれば、かえって相手に心理的負担を強いる可能性があります。マーケティングでは、与えるものと受け取る側の心理的負担のバランスを考えることが重要です。
しつこく見返りを求めない
返報性の原理を活用する際は、見返りを求めすぎてはいけません。一方的に好意を押し付けると、かえって相手に嫌悪感を抱かれてしまう可能性があります。
例えば、ビジネスの場で無料体験サービスを提供したのち、しつこく有料会員への勧誘をし続けると、顧客から苦情が出るかもしれません。SNSの口コミで評判が悪くなれば、新規顧客の獲得も難しくなってしまいます。
このように、あくまで好意として提供したものに対して、過度な見返りを求めてはいけません。「こんなにしてあげたのに」と思うと、むしろ人間関係が損なわれてしまいます。
よかれと思ってマーケティング施策を行っても、相手の気分を害してしまっては本末転倒です。相手の自発的な返報を待つ姿勢を忘れずに、さりげない好意の提供に留めることが肝心です。
バランスを考える
「ギブ・アンド・テイク」という言葉があるように、一方的に与え続けるのではなく、お互いに適切なギブとテイクのバランスを保つことが大切です。
例えば、恋愛やビジネスの関係性において、一方から好意を示し続けても、いずれ疲弊してしまいます。相手から見返りが全くない状態が続けば、結果的に自分が損をしてしまうでしょう。
そうならないために、お互いが気持ちよい距離感でいられるよう、好意のバランスを意識する必要があります。一方的に与え続けるのではなく、適度に受け取る側に回ることも大切です。
返報性の原理を活用する上では、片方の立場に立ち続けるのではなく、バランスを意識することが何より重要です。そうすることで、健全で持続可能な人間関係、ビジネス関係を築けます。
まとめ
返報性の原理とは、他者から何かを提供された際に、自然と「お返しをしたい」と感じる心理的傾向のことです。
この原理を活用することで、ビジネスやマーケティングなどで相手の心理を動かしやすくなります。しかし、過剰に与えすぎたり、しつこく見返りを求めすぎたりすると、かえって逆効果になる点に注意が必要です。
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