「ユーザーの心理状況に合わせたアプローチで成約率を上げたい」
「他社と差別化したアプローチをしたい」
マーケティング戦略を策定する上で、上記のような悩みを抱える方も多いでしょう。
そこで注目したいのが「行動経済学」です。マーケティング分野に応用することで、ユーザーの行動を先読みし、コントロールできると考えられています。
この記事では、行動経済学の概念やマーケティングで活用できる理論を11種類紹介します。併せて、人を動かすための行動経済学の使い方も解説しました。実践に活かしたいと考えるマーケティング担当の方はぜひ参考にしてください。
行動経済学とは具体的に何を指す?
行動経済学とは、経済学と心理学が合わさった学問です。心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキー、経済学者のリチャード・セイラーによって、2002年に創設されました。
「利益を前にした時に、人はどのような行動を起こすのか?」をテーマに、経済の現象を心理学を用いて分析しています。
今日ではマーケティング分野にも行動経済学が活かされているため、営業などの担当者は注目すべき分野です。
経済学とは?行動経済学と異なるポイントを解説
経済学は最大限の利益を追求し、常に合理的な人間の行動を想定したものです。しかし、人間は商品やサービスを購入・契約する時に、予想に反した非合理的行動をとることもあります。
行動経済学とは、感情も含めた人間の行動を示すものです。非合理的なメカニズムを解明するものであり、確定パターン以外にも対応できる強みがあります。
想定できない事態を想像する必要があるマーケティングにおいて、行動経済学は活用しやすい学問といえるでしょう。一方、最大限の理想的な利益を予想する時には、経済学を活用する方が向いています。
行動経済学とマーケティングが関連しているポイントとは
オンラインの利用率が加速する中、マーケティングではユーザーの心理や状況などそれぞれに合わせた接客が求められています。利便性や損得などの合理的な判断だけでは、消費者の行動を予測できません。
非合理的だとしても、人間は以下のような行動をとってしまうといわれています。
- 大多数の人が支持すれば自分も欲しくなる
- 一部の特徴的な印象に全体の評価が引きずられる
- 将来得られる利益が大きくても小さい目の前の利益を求めてしまう
予測できない行動にも、何かしら行動を促す要因が働いています。行動を促す心理を分析しマーケティングに活用し、売上の向上につなげてみましょう。
行動経済学の理論11選
行動経済学は、実際に経営やマーケティングで活用されている有効的なものです。
行動経済学の理論を、ここでは11選解説します。各理論をこれから詳しく解説するので、マーケティング戦略を策定する際の参考にしてください。
きっとよいものと思い込む|ハロー効果
一部の特徴的な印象に引きずられ、全体の評価が傾く現象をハロー効果といいます。よい評価だけに引きずられたり、欠点だけがよく見えたりするのは、ハロー効果によるものです。
採用活動で「東大出身の学生」と名乗るだけで、「肩書で仕事ができそう」と高評価を得るのはハロー効果のわかりやすい例でしょう。
マーケティングでは、以下のような内容提示でハロー効果を得られます。
- 専門性や社会的地位のある人物からの推薦
- 受賞歴の提示
- フォロワー数の多いインフルエンサーの活用
特にインフルエンサーのファンは、その人の発言には好意的な傾向にあります。商品やサービスの紹介を依頼するだけで「この人が紹介しているなら買おう」と、購入することも少なくありません。
慣れ親しんだ環境をキープしたい|現状維持バイアス
現状よりもよい方向に向かうとわかっていても、思い切った変化による損失を恐れ、現状維持を考える心理を現状維持バイアスといいます。限定のメニューがあるにもかかわらず、慣れ親しんだいつもの商品を選んだ経験はありませんか?これも現状維持バイアスが働いた結果です。
ほかには、無料お試し期間もマーケティングにおける現状維持バイアスの実践手法として知られます。「無料期間が終わるとサービスが利用できなくなる」という損失感を使ったテクニックです。
自分のことかも?と思い込む|バーナム効果
誰にでも当てはまるような曖昧な発言や記述を、自分のことと思い込むのはバーナム効果によるものです。広告のキャッチコピーには、ターゲットが抱える悩みを記載するバーナム効果の手法がたくさん使われています。
例えば、ダイエットサプリで「運動や食事制限をしているのに、思うように痩せないあなた!」のような文章に目が留まった経験はありませんか?一見誰にでも当てはまりそうなこのメッセージを、自分のことだと思い込んでしまうのです。
ポイントは、〇〇でお悩みの「皆さん」ではなく「あなた」1人が主語であることです。また、発信者に権威性や信頼性がないと、バーナム効果は働かないので注意しましょう。
比較対象によって選択肢が誘導される|おとり効果
複数の選択肢の中に明らかに選ばれないであろう選択肢を1つ入れるだけで、買い手の意思決定に大きな影響を与えるのがおとり効果です。マーケティングにこの手法を活用し、販売したい価格の商品・サービスを中間に設定することがよく行われます。
身近な例として「松竹梅」の3コースを提示すると、無難な竹コースを選ぶユーザーが多いことが挙げられます。価格設定は適切に行い、5(松):3(竹):2(梅)の割合にするとよいでしょう。
選択肢は3〜5つまでに絞り、ユーザーがストレスなくショッピングをできるよう工夫すると高い効果が期待できます。
何度も接触すると好印象|ザイオンス効果
特定の人やものに何度も接触すると、好感度・評価が高まっていく心理的な効果を、ザイオンス効果(単純接触効果)といいます。テレビCMやSNSでよく目にする商品に愛着がわき、店頭で購入するのもザイオンス効果が働くためです。
マーケティングではメールマガジンを定期的に配信し、商品やサービスへの接触回数を増やす手法に応用されています。SNSを定期的に更新し表示回数を増やしたり、再訪問ユーザーに繰り返し広告を表示させる「リターゲティング広告」を活用したりするのもザイオンス効果の活用例です。
「しつこい」と思われない回数で接触し、ネガティブな表現は使わないよう心がけてこの効果をうまく活用しましょう。
得より損が怖い|プロスペクト理論
損失を避けたいがあまり、合理的ではない選択をしてしまうことをプロスペクト理論(損失回避理論)と呼びます。得することより損することを恐れる心理で、マーケティングでは以下のような手法に用いられます。
施策 | 内容 |
リスクリバース | 商品・サービス購入時の「損したくない」感情を取り除く手法 ※無料期間・返金保証・充実したアフターサポートなどが当てはまる |
ポイントサービス | ポイント付きのお店がお得と感じさせる手法。ポイントがつくため、同じ所で買い物をするようになる |
フィアアピール | ユーザーが抱える不安や恐怖を与え、その要素を取り除く手段を訴求したり、まもなくサービスが終了し損をすると銘打ったりして購入を急かす手法 |
プロスペクト理論は、恐怖をあおるメッセージや焦りを促すコピーを多用します。顧客からの信頼を失う可能性も秘めているため、ここぞという時だけに使いましょう。
矛盾を解消し自分を正当化|認知的不協和
認知的不協和は、自分の思考や行動と矛盾する考えや行動に不快感を覚える状態のことです。
例えば、ダイエットしたいのに、甘いものを食べたい欲求が生じることがあります。その時の状態を認知的不協和に当てはめると、以下の通りとなります。
- ダイエット中に甘いものが食べたくなった
- 食べる理由を正当化するため「疲れた脳には糖分が必要」など理由を見つける
- 脳内で納得し認知的不協和の状態を解消しようとする
マーケティングでは認知的不協和を活かし、商品の特徴とユーザーが抱える悩みを結びつけ購入動機を提示します。矛盾を解消するキャッチコピー「運動が苦手な人でも健康的に痩せるダイエット法」などは、まさにこの心理学を活用したものです。
購入後に後悔させないよう、アフターフォローを充実させることも大切です。
皆支持するなら私も|バンドワゴン効果
多数の人が支持しているものに、より一層支持が集まることをバンドワゴン効果と呼びます。行列ができているお店を見て「おいしそう」「人気がある」と思い、自分も並びたくなるのはこの心理による行動の代表です。
マーケティング広告でバンドワゴン効果を活用する際には、フォロワーが多いインフルエンサーのPRや商品レビューを活用し権威性を示します。「お客様からの支持率No1」「総売上3万本突破!」などの売り文句は、マーケティングで非常に多く使われる手法です。
マーケティングで活用する際には表現が過剰にならないように注意し、第三機関のリサーチをするなど信用性を高めるためのエビデンス導入をはかりましょう。
将来より目先の利益|現状志向バイアス
現状志向バイアスは、将来得られる大きな利益よりも目先の小さな利益を優先してしまう心理です。
以下のような心理状態は、すべて現状志向バイアスによるものといわれています。
- 1年後10キロ痩せる未来よりも、目の前のケーキを選ぶ
- 将来のための勉強時間よりも、目先の娯楽を優先してしまう
マーケティングでは広告のキャッチコピーで今すぐの行動を促し、現状志向バイアスを活用します。
「今すぐダウンロード!」「これを飲めば明日から痩せる体質スタート」など、すぐ願いが叶うという点を強調したキャッチフレーズを作ってみましょう。
今までに費やしたコストに束縛される|サンクコスト効果
今まで費やしたコストが無駄になるからと、合理的な判断ができなくなるのはサンクコスト効果によるものです。この心理現象では金銭だけでなく、時間や労働などの時間消費行為もコストとします。
以下のような消費者の行動は、サンクコスト効果によるものといえるでしょう。
- あまり着ない服を「いつか着るから」と残しておく
- 失敗したと感じる購入品も「せっかく購入したから」と不便に感じつつ利用する
マーケティングでサンクコスト効果を活用する際には「せっかく入会したのに今退会するのはもったいない」と感じさせるのが重要です。無料お試し期間やサブスク、購入金額に応じたランク付けなどのサービスは、ここで退会するともったいないという心理を働かせます。
結果的に消費者の長期支払いにつながるため、月額制サービスと相性のよい手法といわれています。
表現や提示方法によって評価が変わる|フレーミング効果
情報提示の仕方や表現次第で、本質的に同じ物でも評価は大きく変わってしまう心理をフレーミング効果と呼びます。見せ方・表現方法を意識し、マーケティングにこの効果を活かしましょう。
フレーミング効果を活用した、キャッチフレーズの改善例は以下の通りです。
- 「商品に不満を感じる人2%」より「購入者の商品満足度98%」の方が信憑性が高く見える
- 「2つお買い上げで半額」より「2つ目無料」の方がインパクトが強くなる
- 「月額3,000円より」「1日あたり100円で利用可能」の方が安く感じる
どうすれば広告のインパクトが強くなるのかを考え、驚きがある方の言葉を採用しましょう。お得になる場合には金額が安く見える方を、満足度などの数値ではパーセンテージが高く見える方を選ぶのがセオリーです。
行動経済学を活用する際の注意点とは
マーケティングに便利な行動経済学ですが、信用しすぎると誇大広告を銘打つリスクもある学問です。また、長期的にじっくり取り組む必要があるため、すぐ効果を望む方には向かないというデメリットにも注意せねばなりません。
ここでは、行動経済学を活用する際の注意点を解説します。
あくまで理論である
行動経済学は感情を含めた人間の行動ですが、あくまでデータに基づいた理論であることを忘れてはなりません。効果は業種や状況などで大きく異なるため、参考程度にする必要があります。
行動経済学に偏りすぎると、誇大広告や二重価格表示などコンプライアンスに反するリスクを負う可能性があり危険です。すべてを行動経済学理論に当てはめず、マーケティングにおける数値の活用や顧客アンケートの実施なども同時に行いましょう。
短期的に成果が出るわけではない
マーケティングを含め、行動経済学を取り入れてもすぐに成果が出るわけではありません。そのため、中長期的にじっくり取り組む前提で行うことが大切です。
行動経済学を活用したマーケティングは、最初だけうまくいくこともあり得ます。そのため「なぜ効果が出たのか?」「その効果はなぜ持続しなかったのか?」を考えなければ、施策が先細りになってしまう恐れもあります。
1つの行動経済学に頼らず常に検証と実践を行い、マーケティングの内容を変化させましょう。ユーザーが望む施策を打ち出せれば、評価は自然に上がっていきます。
まとめ
行動経済学とは経済学と心理学が融合した学問であり、消費者の合理的でない行動を分析するものです。マーケティング戦略の策定に役立ち、感情や心理状態に合わせたアプローチができます。
しかし、行動経済学を過度に重視することはコンプライアンス違反につながる可能性もゼロではありません。成果を出すには長期的な視点で取り組む必要があるため、じっくりと施策に取り込み確実に利益を出しましょう。
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